要素間の位置づけ ―伝える技術(6)

メディカルライティングのための「伝える技術」、第6回のテーマは「要素間の位置づけ」 です。これは「メッセージが伝わる文章構成」を考えるためのポイントの一つです。

思考不足が垣間見える

皆さんは何か文章を読んだときに、その文章の出来が良いか悪いか、ということを気にしているでしょうか? 多くの人はそんなことまで考えて読まないと思います。何となく、読みやすい、読みにくいという印象を持つくらいかもしれませんね。

私は仕事柄、文章の良し悪しを判定する立場になることがあります。そのときに注意して確認しているポイントがいくつかあるのですが、その一つが「要素間の位置づけが考えられているかどうか」という点です。

要素間の位置づけを考えていない文章

「要素間の位置づけ」と言われてもピンと来ないと思うので、具体例を出してみます。要素間の位置づけが考えられていない悪い文章の例です。

『今年の気候はおかしい。西日本は暖冬で東日本は極寒だ。雨が降らないので空気が乾燥して、喉がカラカラになり、風邪のウイルスがうつりやすくなる。外に出るときは暖かい服装が望ましい。マスクは喉の乾燥を防ぎ、感染予防になるのでオススメだ。』

読んでいて引っ掛かる点はありましたか? 実は、この文章は2つの要素が混在していて、整理されていません。全体としては冬の気候対策ですが、気温(寒さ)の対策と湿度(乾燥)の原因と対策がごちゃ混ぜになっています。

この文章の良し悪しを聞かれたら、きっとこう答えます。――この文章の書き手は「冬の気候対策について書こう」とは思っているでしょうが、それぞれの要素について考えが及んでいないので、思いついたように要素を並べてしまっている。5歳児が見たら「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と恫喝されるぞ、と。

要素の位置づけを整理すると、過不足が見えてくる

先ほどの悪い文章を、内容は変えずに、要素の位置づけに着目して整理すると、下記のようになります。

『今年の気候はおかしい。西日本は暖冬で東日本は極寒だ。外に出るときは暖かい服装が望ましい。 雨が降らないので空気が乾燥して、喉がカラカラになり、風邪のウイルスがうつりやすくなる。マスクは喉の乾燥を防ぎ、感染予防になるのでオススメだ。』

前半は温度の話、後半は湿度の話として整理されました。このようにしてみると、「服装」に言及している部分の薄っぺらさがより目立つのではないでしょうか。寒いから暖かい服を着よう。はあ、そうですか。ご賢察に恐れ入ります。

『今年の気候はおかしい。西日本は暖冬で東日本は極寒だ。西日本から東日本に行く人は、1枚多く着て、マフラーや手袋などの防寒具もお忘れなく。(以下略)』

温度の部分を書き直してみました。西日本と東日本の気温差を踏まえた意味のあるアドバイスになりました。このように要素を整理していくと、文章を書くにあたって準備や思考が不足していた面を見つけ出しやすくなります。

要素それぞれにラベリングをする

私が文章を書くときに意識してやっている方法としては、この要素は何のために存在しているのか、ラベリングをしておくことです。例えば、先ほどの文章の要素それぞれにラベリングをするとこうなります。

  • 今年の気候はおかしい ⇒[導入]
  • 西日本は暖冬で東日本は極寒だ ⇒[温度の前提]
  • 西日本から東日本に行く人は、1枚多く着たり、マフラーや手袋などの防寒具をお忘れなく ⇒[温度の対策]
  • 雨が降らないので空気が乾燥して ⇒[湿度の前提]
  • 喉がカラカラになり、風邪のウイルスがうつりやすくなる ⇒[湿度の弊害]
  • マスクは喉の乾燥を防ぎ、感染予防になるのでオススメだ ⇒[湿度の対策]

このように、それぞれの要素についてどのような役目があるのかをラベリングしておくと、整理された文章にしやすく、要素や思考の過不足に気づきやすくなります。

今回は、既に存在する文章を分解してラベルを付ける作業をしましたが、何もなくて一から文章を書く場合は、まず必要なラベル一式を考えてから、そこに適切な情報があるかどうか調べたり考えていくということになります。メッセージを伝えるために必要な要素の枠をつくって、そこを情報で埋めていくというイメージです。

こういう風に文章を組み立てていけば、フワフワしたつかみどころのない文章にはならないはずです。「書いているうちに、何が言いたいか分からなくなってきた」という経験がある方はぜひ「要素間の位置づけ」を意識してみてください。

Follow me!

要素間の位置づけ ―伝える技術(6)” に対して1件のコメントがあります。

この投稿はコメントできません。