要素間のつなぎ ―伝える技術(8)

メディカルライティングのための「伝える技術」、第8回のテーマは「要素間のつなぎ」 です。ここまで「メッセージが伝わる文章構成」を作るための「要素間の位置づけ」「思考の流れ」について解説してきました。ここまで考えれば8合目まで来ていますが、残りの2割を詰めるためには「要素間のつなぎ」についても検討する必要があります。

読了率を下げる「分断感」

文章で取り上げる要素を選ぶ。読者の思考の流れを踏まえて書く順番を決める。――いずれも読了率を上げるために重要な検討事項です。でもここで安心してはいけません。「要素間のつなぎ」まで考えてやっと、それまでの努力が文章に反映されるのです。

「要素間のつなぎ」とは?

皆さんはハンバーグが好きですか? まあ大半の日本国民は好きですよね。料理をする人であれば、ハンバーグを作る際には卵やら牛乳に浸したパン粉やらを用意せねばならないことを知っているはずです。そう、いわゆる「つなぎ」です。挽き肉と炒め玉ねぎを一体化させ、焼いてもハンバーグの形を保つために入れます。

文章構成を考える上で重要になる「つなぎ」にも同じ効果があり、要素Aと要素Bをつないで、スムーズに読者を次の要素に誘うことができます。

つなぎがない文章はこんなイメージです↓

【要素A】【要素B】【要素C】

これだと要素と要素の間に分断感があり、要素Aを読んだら離脱する隙を読者に与えてしまいます。仮に要素Bまで読み進んでくれたとしても、要素Aに対して要素Bの位置づけが明確ではないので、意図を読み解くのに余計な労力を使わせてしまいます。いずれ疲れて、最後まで辿り着く前に力尽きる読者が多くなります。

逆に、つなぎがある文章はこんなイメージになります↓

【要素A】⇒【要素B】⇒【要素C】

⇒の部分が「つなぎ」になります。 要素Aのラストに、要素Bへと向かうためのつなぎを入れておく。また要素Bの冒頭も、そのつなぎを受ける言葉を入れる。そうすると、本来は別の要素であったAとBとが一体化し、すんなり読者が受け入れられるようになります。AからBに話が変わるときに、読者の気持ちを置き去りにしないためのクッションを用意するということです。

ここまでの説明で何となく「つなぎ」のイメージが伝わったでしょうか。念のため、次項でよくあるパターンをご紹介します。

「要素間のつなぎ」よくあるパターン

文章内で要素と要素をつなぐ「つなぎ」で、最もシンプルなものは「接続詞」(とそれに類する言葉)です。次に、つまり、しかし、そのため、例えば、まとめると、最後に……こういった言葉には、前の要素と次の要素の位置づけを明確にしたうえでつなげる効果があります。

ただし、こういった接続詞は使い勝手がいいので、その意味を考えずに何となく入れてしまいがちです。書く側が何気なく入れた接続詞で、読者が混乱してしまうことがあります。つまり、接続詞が指し示したベクトルの向かう先とその後の要素が一致していないと、違和感が生じてしまうということです。内容としては順接なのに、接続詞は逆接を使っているのはよく散見しますので注意しましょう。

また、接続詞を使わずとも、文章でつなぎを作ることもできます。例えば下記のようなパターンです。

  • Aを理解した人であれば、次にBという疑問が出るよね
  • Aで理論は説明したけど、具体例はBで紹介するね
  • Aの次には通常Bが来るけど、Bの場合はどうかな
  • Aにはこういう特徴があるけど、Bにも類似点があって…
  • Aが一般的に常識とされているけど、実はBが真実で…

個人的には「つなぎ」が、プロとアマの違いを分けている重要なポイントの一つだと思っています。つなぎを考えること自体、発想力が求められるクリエイティブな作業ですし、文章全体の精度を高めることにもつながるからです。

つなげないなら、必要ないかもしれない

つなぎが文章全体の精度を高める理由は、その作業が「つなげない要素の洗い出し」になるからです。どう考えても上手いつなぎが思いつかないなら、その要素同士の相性が悪いのです。要素を変えるか、順番を入れ替えるか、構成を考え直す必要があります。

だって、書き手が要素間のつなぎを思いつけないような展開なのに、読者がスムーズに読みこなせるわけがないじゃないですか。「行間を読んで」というのは、読者がどうしたって最後まで読みたい小説などでのみ通用する話です。メディカルライティングのように、およそエンタメ要素の入りにくい文章であればなおさら、強いベクトル作用を持ったつなぎで読者を先導していきましょう。

Follow me!