ついに完成!佐賀県の肝がん対策本『い肝ばい肝!』―伝わるメディカルのブックライティング(3)

 ついに初の著書 『い肝ばい肝!-肝がん全国ワーストワンの佐賀県で何が起きたのか?-』 が完成しました!!

 江口有一郎先生(佐賀大学医学部附属病院肝疾患センター初代センター長/現・医療法人ロコメディカル総合研究所所長)からお声かけをいただいてから約1年かかりましたが、やっとゴールに辿り着けました。実際に実物を手にしてみて、単著ですが「自分が作ったもの」という感覚はほとんどありませんでした。これまで多数の関係者のご厚意によって成り立った「みんなの著作」だからでしょうか。何だか信じられないような、不思議な気持ちです。

著者が勝手に語ってみる「本書の読みどころ」

 さて、こんな機会も滅多にないので、著者の立場から本書の読みどころを紹介させていただきます。内容だけでなく、執筆に当たって工夫したことも併せて書いてみます。

プロローグ―肝がん死亡率ワーストワンの佐賀県で何が起きたのか?―

 プロローグでは何と言っても、あるC型肝炎患者さんが治療を完遂することができ、テレビ番組でビールを16年ぶりに呑むことができたエピソードを最初に持ってこれたことが大きかったです。佐賀県の肝炎・肝がん対策によって「全国ワーストワンを脱却した」という成果はすごいことなのですが、そのことよりも「患者さんの人生がどう改善したか」という方が実質的かつ本質的であり、読者の共感を得られるはずです。

 また、肝炎と肝がんの関係、肝炎ウイルス感染との関係を理解していただくことが、肝炎・肝がん対策の内容をお話する大前提となります。しかし、読者にとってはつまらなく感じる部分であることが予想され、どのように解説を入れ込んでいくかが一つの課題でした。理想としては読者に負担をかけないよう、読み進めていくうちに自然と頭に入るような解説の仕方だと思うのですが、そこまでの力量はなく……。次善の策として、プロローグの肝炎患者さんの感動的なエピソードの余韻が冷めないうちに説明することにしました。どうかこの部分で挫折せずに読み切ってほしいという願いを込めて……!

第1章 なぜ佐賀県に肝炎・肝がんが多いのか?

 第1章は佐賀県における肝炎・肝がんの歴史について解説しています。これも必須の事項ながら、普通に書くと読者にとっては面白くない部分なので、人物をフックとした解説を試みました。「雅史、田んぼや川に入って遊んではいかんぞ!」や「外科医を辞めて保健所長になるだって?隠遁の道じゃないか、逃げる気か」という気になる台詞を冒頭に持ってきて、その流れで歴史の解説に持ち込む手法を用いています。

第2章 どうしたら佐賀県の肝炎・肝がんを減らせるのか?

 第2章は、第1章で出てきた登場人物が、佐賀県で本格的な肝炎・肝がん対策を実施するために躍動します。第1章を「起」とするなら第2章はその「承転結」に相当し、「前史」から「現代」へのトランスフォーメーションをさせるための章です。書き方として特別な工夫はそれほどしていませんが、やはり淡々と書いてしまうと飽きられるので、ところどころ目の覚めるようなフレーズをあえて仕込んでいます。なかでも「佐賀県はそのお金を出しますか」「あいつはイカレてる」はお気に入りです。溝上先生、渋々(?)ご了承くださってありがとうございました!

第3章 官学民で取り組む佐賀県の肝がん対策

 第2章では佐賀県と佐賀大学の「官学連携」の仕組みができるところまでした。第3章では某コンサルティングファームやメディアなどの民間企業が加わり「官学民連携」が完成するまでを描きます。仲間が増えることの意義を際立たせるためにも、江口先生がぶっ倒れるエピソード(唯一の失敗)を中間に挟むことを念頭に構成しました。また、本書の前半のどこかで解説しなければいけない必須のお勉強要素(行動変容ステージ、制約理論)もさりげなく(?)盛り込んでいます。

第4章 肝炎の検査を受けてもらうには?

 第4章ではいよいよ、本書のタイトルにもなった「い肝ばい肝!」というキャッチコピーが登場します(SAGA肝がんワースト1汚名返上プロジェクト)。タレントのはなわさんへのインタビューや、出演CMの裏話など、佐賀県民にとって最も身近な肝炎対策について解説しています。ここは元々読者の興味があるところでしょうから、小手先の工夫に頼らず、粛々とルポ形式で書いています。

 後半には江口先生が「この本の中で最も自分が思っていることが伝わっている」と評した、地元商工会のエピソードが出てきます。この辺りまで読み進めていただれば、気持ちがだいぶ入り込んできていただけるのではないかと期待しています。書いた張本人の私も、校了前に最初から改めて読み返したとき、この部分が最もジーンと来ました。ここが本書の山場と言えますね。

第5章 肝炎の治療を受けてもらうには?

 本書は第4章で一つの山場を迎えたわけですが、第5章では一転して難易度が高くなります。どうしたものかと悩みましたが、ここは「読みたくなければすっ飛ばしても構わない」と開き直って、各種の調査結果やデータを紹介しました。正直、一般の方が読んでもピンと来にくいと思いますが、医療や行政などの関係者にとっては、おそらく宝の山のように見えるはずです。無理に一般人に合わせてぼやけた解説をしてしまうと、どちらにとっても参考にならない中途半端なものになりそうだと判断しました。

 また、江口先生から提供いただいた調査資料は数多く、すべてをおしなべて紹介するのは下策だと思いました。そこで「読者に仮説を提示し、それに関する調査結果を紹介する」という形を取り、ピックアップしました。あとは単純にデータを紹介するだけではなく、そこに至るまでの思考や解釈、方法論を分かる範囲で付け加えています。書くのが最も大変だったのはこの章でした。

第6章 佐賀肝炎対策の神髄は多職種連携にあり

 第5章に続いて第6章も、書き手を悩ませた章でした。これまでの構成は大きく「佐賀方式」という枠組みと時系列の2軸に沿って組み立ててきたのですが、その軸に当てはまらない要素がまだ残っていたのです。例えば、肝炎医療コーディネーターの養成と活躍であったり、協会けんぽでの無料検査といった近年の取り組みは、これまでの章の流れの中に位置づけることが難しかったのです。これらの要素を違和感なくサルベージすることが、第6章のミッションでした。「これまでの流れからすると少しゴチャついているな」と感じた方は大正解です!m(__)m

エピローグ―肝炎・肝がん患者がゼロになる日まで―

 第5~6章の苦境に比べて、エピローグはもう解放された状態で、登場人物の感想まとめといった体裁です。最後のギリギリまで取材内容が揃わなかったという事情もあり、凝った構成にはできませんでした。強いて言えばラストシーンを演出したくらいです。

 書き手としての全体の反省としては、前半~中盤の構成がうまくできた分、後半にしわ寄せが行ってしまったという点が一つです。あとは読者対象を絞り切れていなかったというのも、色々な制約がある中で難しかったところではあるのですが、やはり今ひとつ力が及びませんでした。また、インタビューをすればするほど新事実が発覚していましたので、まだ掘り起こしていない(本来なら紹介すべき)要素があるのではないかという疑念はございます。。もしそういったことがあればご指摘いただければ幸いです。

 有難いことに、今後もブックライティングの案件をいただいております。今回の経験を生かして、2冊目、3冊目と精進していきたいと思います!

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