読者ペルソナ ―伝える技術(2)
メディカルライティングのための「伝える技術」、第2回のテーマは「読者ペルソナ」です。ペルソナとは仮面・役柄・人格といった意味を持つ言葉で、『商品開発の際に設定する架空の人格。名前・年齢・性別・趣味・住所などから始め、細部に至る人物像を作りだし、その人格に感情移入することで、ユーザビリティーに優れた製品・商品の開発に結びつける』(大辞泉)という意味もあります。読者ペルソナの設定は、文章を書く上で必要不可欠な要素です。
どうして読者ペルソナが重要なのか
なぜ読者ペルソナが必要不可欠なのか、その理由は「他人に何か伝えるための文章は、受け取り手が必ず存在するから」です。仕事上のメールを書くときだって、送り先の人物を意識した文章になっているはずですし、個人的な日記でさえも、無意識に未来の自分の視線を考慮して書いているはずです。
受け取り手の気持ちに響く文章を書くためには、読者ペルソナ設定は絶対に外せません。 それがないと、そこから派生する読者のニーズ、そして伝えるべきメッセージの設定などができないからです。
他人に何かを効果的に伝えるための文章では、いかに詳細なペルソナを設定するかが肝だと考えています。
読者ペルソナがない文章・ある文章
逆に、あえて読者ペルソナが設定されていない文章もあります。例えば「辞書」がそうです。辞書はどんな人にも同じように言葉の説明をするのが役目なので、読者を作為的に絞った表現をせず、フラットに書いています。他にも、製品マニュアルや法律、医薬品の添付文書などもそうですね。
『インフルエンザとは、インフルエンザウイルスを病原とする急性の呼吸器感染症。発熱・頭痛・全身倦怠感、筋肉痛などの症状がみられる。かぜ症候群に比べて全身症状が強く、症状が重い。』
これは大辞泉のインフルエンザの項目に書いてある文章です。辞典の文章としては正解なのですが、これを「患者教育」や「一般人の医療リテラシー向上」のためにそのまま使うのはいただけません。なぜかというと「自分ゴト化」しにくく、伝わりにくいからです。
では次に、「インフルエンザに罹ったかもしれないと心配している成人」を 読者ペルソナに設定して、内容はほとんど変わらないように書き直してみます。
『インフルエンザは、急に発熱したり、頭痛が起きたりする病気です。いつもの風邪よりも症状が重めで、鼻や喉の異常だけでなく、身体のだるさ(倦怠感)や、筋肉痛などの全身症状も強く感じる場合は、インフルエンザの可能性があります。これは、インフルエンザウイルスが呼吸器に感染したことによって起こっています。』
いかがでしょうか。ぐっと読者を意識した表現になりましたし、これ以外にも具体的な情報をもっと追加していけそうです。読者ペルソナがあるからこそ、彼らのニーズを酌み、それに合わせたメッセージが考えられるようになるのです。
読者ペルソナ設定のコツ
先ほどの例では 「インフルエンザに罹ったかもしれないと心配している成人」 という設定にしました。読者ペルソナの設定を全くしていないよりはマシですが、これだとまだザックリしすぎです。より読者に寄り添った文章にするためには、読者ペルソナとして「知り合いのあの人」くらい具体的な人物像を設定することが大事です。
最近の事例で、読者に寄り添った文章を何人かのライターで分担して書く必要がある案件を受けたときには、架空の人物を詳細に設定しました。名前、性別、仕事内容、家族構成、趣味、性格…等々、その人のイメージ写真を添えた資料を作成し、それをクライアントにも共有し、理解を得ました。そのときは偶然、そのペルソナによく似た共通の知り合いがいたので「〇〇さんみたいな人」ということで関係者の理解がグンと上がりました。その後の作業では「〇〇さん向けになっているかどうか」が共通の判断基準となり、イメージが定まらないフワフワしたやりとりが減ったと感じています。
このくらい読者ペルソナがしっかりしていれば、どんなテーマを何本書いたとしても、ブレずにしっかり届く内容&表現の原稿を書き続けることができます。少し時間がかかりますが、その後の作業効率やクオリティに直結する部分なので、ぜひ執筆前に読者ペルソナ設定をしてみてください。
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