ロジカルシンキング ―伝える技術(5)
メディカルライティングのための「伝える技術」、第5回のテーマは「ロジカルシンキング」 (論理的思考) です。読者・医療者ニーズを踏まえて伝えるべきメッセージが決まったら、次は「伝わる文章構成」を検討することになります。
私は、構成が固まれば原稿は半分完成したようなものだと思っています。というか、原稿を作成する労力の半分を構成づくりに費やすべきです。今回は文章構成を作るうえで基盤となるロジカルシンキングを取り上げます。
ロジカルシンキングは説得のためのツール
最初に断っておきますが、私自身はロジカルな思考に裏打ちされた行動よりも、感情とか直観で動きがちな人間です。ただし、ライティング(+α)をする際には意識してロジカルシンキングを心掛けるようにしています。なぜならば、読者にメッセージを伝えるために、ロジカルシンキングはなくてはならない基本的な技術だからです。
目標は「メッセージを伝えること」
文章を書く目的は、メッセージを伝えること。メディカルライティングの場合、そのメッセージは読者にとって受け入れ難い内容が含まれることもあります。こういうときは、メッセージを受け取ってもらうために「説得する」必要が出てきます。
しかし、他人を説得するのは、簡単ではありません。激ムズです。他人の行動を変えるくらいなら、自分の認識を変えてしまった方が楽なくらいです。とはいえ、ビジネスや政治などの世界ではそういうわけにもいかないので、ロジカルシンキングが重用されてきたのだろうと思います。
大辞泉によると、論理は「考えや議論などを進めていく道筋。思考や論証の組み立て、思考の妥当性が保証される法則や形式。事物の間にある法則的な連関」と説明されています。他人を説得するには、多くの人が妥当だと思える筋道を辿って説明するのが良さそうです。
仮想読者に「なぜ?」と言わせよう
メッセージを伝えるときには、それを支える根拠をロジカルに配置して、納得感のある構成をつくる必要があります。その配置法として有名なのは下記の2つです。
- 帰納法:複数の根拠に共通する点に着目して主張する方法
- 演繹法:一般論やルールと根拠を関連づけて主張する方法(三段論法)
とはいえ個人的には、「よし、今回は帰納法で書こう」「これは演繹法で」などと決めているわけではないです。頭の中では、仮想読者を一人イメージして、メッセージに対する反応や反論を言わせ、それに対する回答とその根拠を用意します。それを順序よく配置していく感じですかね。それが結果的に帰納法や演繹法の形になっているのが理想です。
かつての上司は「『なぜ?』を10回繰り返せ」とよく言っていました。本当に10回やる必要はないかもしれませんが、文章構成を考えるときに、仮想読者に「なぜ?」と何回か言わせることは重要だと思います。
ロジカルだけではダメ、ロジカルなしはもっとダメ
そういえば、今までにコンサルティングを専門とする方々による社内研修を数回受けたことがあるのですが、共通の笑いのネタがありました。それは「ロジカルシンキングで恋愛・家庭はうまくいかない」というもの。ビジネスでロジカルシンキングをぶん回してドンドン成功しているような人が、プライベートでロジカルシンキングを多用して相手に嫌われた実体験を苦々しく話していました。これはきっと「コンサルあるある」なんでしょうね。
医療・健康というのはプライベートに内包される話題なので、恋愛や家庭と同じように、ロジカルシンキングだけだと嫌がられる可能性は高いです。とはいえ、論理性のない内容では説得力に欠けてしまいますので、やはりロジカルシンキングの素養は必要不可欠です。
メディカルライティングでは、説得力のあるロジカルシンキングをベースとしながらも、読み手の感情に寄り添うことが必要だと考えています。そのあたりについてはまた別の機会に解説します。