左脳で考え右脳で跳ぶ ―伝える技術(11)

メディカルライティングのための「伝える技術」、第11回のテーマは「左脳で考え右脳で跳ぶ」 です。タイトルや文章構成を考えるときに、どう発想すればいいのか。いろいろ方法はありますが、なかでもお気に入りのやり方を紹介します。

たまには右脳も使ってあげて!

前回はタイトルや導入の重要性について述べました(『タイトルと導入が命』参照)。それが高じて一時期、宣伝会議のコピーライター養成講座に通っていたことがあります。講師のLv.の高さに「化け物か…!」と驚愕するとともに、自分の発想力の乏しさに愕然としたものです。

惜しみなくノウハウを公開しまくる講師陣の金言の中で、特に心に残っているのが「左脳で考え右脳で跳ぶ」というものです。ここではメディカルライター向けに少しアレンジしたものもご紹介します。

左脳だけの人多くね?

一般的に「左脳は論理的な思考、右脳は情緒的な思考を司る」と言われています。 脳科学的に正しいかどうかは分かりません(おそらくそんな単純なものではない気がする)が、ここでは「例え」としてご理解いただきたく。

で、メディカルライティングのようなお堅い書き物をしていると、どうしても左脳に偏ってきてしまいます。薬剤の添付文書とか学術論文とかは左脳だけでいいでしょうが、一般人向けやプロモーションなら、真面目なだけだと読んでもらえませんよ。だって相手には「読む義務」がないんだもん。

日本人は真面目なのかクソ真面目なのか、医学という崇高な領域においてふざけてはいけないという不文律を守る人が多いような気がします。でも、読んでもらわないと、どんなに崇高なことを書いてても意味ないっすよ?

右脳だけじゃ仕事にならない

逆に、右脳だけでのメディカルライティングもあり得ません。かの有名な「肩こりは幽霊のせい」「キャベツ枕」的なトンデモ文章(可燃性)になっちゃいます。

大事なのは、左脳と右脳をバランスよく使うこと。左脳で隙のない論理を構築して配置した上で、最後の味付けとして右脳を使うのが、メディカルライティングではちょうどいいくらいかなと思います。

天使だけを見ず、悪魔に目を向けよ

左脳で論理的に考え、右脳で自由に発想する(思考を跳ばす)。しかし、右脳で思考を跳ばすときには、社会規範や倫理観が足を引っ張ります。 左脳と右脳の間に 「仕事なんだから」「医学なんだから」といったフィルターがあると、数㎝しか跳べません。数m先にある斬新なアイデアにリーチするには、思い切って跳んでしまわないと。

論理と狂気のあいだ

コピーライター養成講座の講師は、左脳による論理的な案を大量に作っておいて、それを完全に封印し、いったん「アホになる」と仰っておりました。そんじょそこらのアホじゃないですよ。ホワイトボード全面に小学校の男子が好きそうな言葉(例:ウンチ)や絵(例:ウンチ)を一心不乱に書きまくったりするらしいです。そうすると右脳のチャネルが開いて、左脳では発想し得ないアイデアの素を思いつくそうです。

もちろん右脳による案をそのまま提出するわけにはいきません(理解されないor怒られる)。その後はいったん冷静になって、左脳の案と右脳の案を並べてみると、両者を混ぜたちょうどいい折衷案が思いつく、らしいです。

天使の信頼と悪魔の魅力

上記は、短文に命(と時間)をかけるコピーライターとしての方法の一例です。メディカルライター諸氏におかれましては、短い納期で1本あたり数千文字書くのが日常業務かと思いますので、大量にウンチを書く時間はないはずです。残念ながら私も実践したことはありません。

そこで、より簡易的な方法として「天使と悪魔をイメージする」ことをおすすめします。いったんタイトルや構成を真面目に考えた後に、悪魔の視点から眺めるという方法です。悪魔の視点とは、建前ではなく本音、貴人ではなく下衆、ライトサイドではなくダークサイドに身を置いたときに感じること、という意味です。

例えば、「健康になるには運動が大事」というタイトル案があったとして、悪魔の視点では「運動できたら苦労しねえよ」「不健康でもいい」「そう書いてるお前は運動してるのかよ」などの口汚いツッコミを思いつくはずです。それに対して、頭の中の天使ちゃんはどのように反論するかな…などと考えていくと、当初は気づいていなかった切り口を思いつくことがあります。

信頼・安心・論理派の天使ちゃん(≒左脳)だけに頼らず、本音で魅力的な大衆寄りの悪魔ちゃん(≒右脳)の意見も聞いたうえで、最終的には自分自身が面白いと判断したものを選び取る。これならそんなに時間がかからないので、ぜひ試してみてください。

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