サービス精神 ―伝える技術(12)
メディカルライティングのための「伝える技術」、第12回のテーマは「サービス精神」 です。どんなに知識や技術があっても、サービス精神がないと宝の持ち腐れなんじゃないかと思うことがしばしばあります。技術論というより仕事論って感じですが……独立して食っていくために、サービス精神は非常に重要なポイントだと考えています。
サービス精神なきフリーランスの末路
「〇〇というテーマについて、このくらいの文字数で書いてください」という依頼に応える、それがライターのお仕事ですよね。原稿料をもらうためには、依頼者が想定しているレベルの原稿を納品すればいいです。検収をパスすることができれば、お金にはなります。運が良ければまたお声がかかるかもしれませんね。
会社で雇われている場合やライティング依頼を回してくれる会社に登録している場合は、このような仕事観で問題ないでしょう。ただ、どこにも属さずに完全に独立している人(以下フリーランス)は、このような仕事ぶりだと食いっぱぐれるに違いない。何故かと言うと、リピート依頼が「運任せ」だからです。リピート依頼率をキープしつつ、新規も少しずつ取っていくくらいじゃないと、フリーランスは厳しいと思います。
では、リピート依頼を運任せにしないためにはどうするか。それは全方位に向けて「サービス精神」を発揮しつづけることが一つの解決策ではないでしょうか。依頼者のみならず、読者、取材先などの関係者(ステークホルダー)に対して、できる限りのサービスを仕込むと、依頼主の期待値を超えたものを納品できるのみならず、そこからビックリするような展開を見せることだってあるのです。
読者へのサービス精神
納品物(原稿)で大きな違いとなって表れるのは、読者へのサービス精神です。依頼主が納品物を見たときに「合格点だけどイマイチな原稿」と感じるのは、その原稿に読者へのサービス精神が足りないからです。
例えば、ある学会を取材してレポートを書くとします。「医療と介護の連携」という演題を取材したとして、読者へのサービス精神が欠けている人がまとめてしまうと、その演題を最初から最後まで順に紹介するような、のっぺりとした仕上がりになります。オーダーとしては「その演題を取材して要約せよ」ということなので、これでも依頼者は一応OKは出すと思います。次にまた依頼するかどうかはともかくとして。
読者へのサービス精神がある人は、まず読者層を想像します。この記事を見るのは医療従事者なのか、それとも介護従事者なのか、一般市民なのか……。それによってまとめ方が大きく変わります。医療従事者がメインの読者なら介護との連携で医療がどれだけ捗るかをまず示して関心を引く構成を考えますし、介護従事者がメインなら医療側とうまく連携を取るためのTIPsを中心に構成します。こうすると自然と記事タイトルも素敵なものになりますし、数字(PV)もついてきます。
読者を想像し、その人たちに喜んでもらいたいというサービス精神を発揮できるか、それがまとめ方の巧拙を大きく2分するポイントです。
依頼主へのサービス精神
次に依頼主へのサービス精神です。サービスといっても、媚びへつらうことではありません。むしろ依頼主と中立の立場で、依頼主チームの一員になったくらいの気持ちで接する方がうまくいきます。そうすると納品後の作業や周りにかける負担をイメージしやすくなります。
ほぼすべてのライティング依頼の先には、次の工程が待っています。原稿を納品した時点でライターの仕事は終わりですが、その次のステップで待ち構えている人の仕事が始まります。そのことを理解して動けないライターはいずれ干されます。
具体的には、連絡もなく納期を破るとか、誤字脱字ばかりだとか、いつも文章の修正に長時間かかってしまうといったようなことは、依頼者やその次の工程で待ち構えている人々に大きな負荷をかけてしまいます。以前「自分はライターで校正者ではないから用語統一はしない」と言い切った人がいました。もちろん誤字脱字ゼロや完璧な用語統一を求めているわけではないですが、その後の依頼者の負荷を考えれば、できる範囲では努力しておくべきです。恐ろしいことに、これらの負荷についてライター本人に文句を言う依頼者はほとんどいません。
同じ原稿料を払うなら、完成度が高く、納期を守る(むしろ前倒しする)ようなライターが選ばれるのは必然です。
取材先へのサービス精神
そして、可能であれば検討したいのが取材先へのサービスです。毎回かならず菓子折りを持っていけという話ではありません。ライター(記者)は情報と情報の接点にいる存在です。黒衣的に動くことで、大きな流れを作ることができることもあります。
最近あった事例で、ある学会の取材レポートを書いた際のことです。講演者の目指す方向性は、依頼者が持っているリソースを使うとうまくいきそうであることに気づきました。私は第三者の立場ではありますが、原稿納品時に依頼者にその旨をお伝えしたところ、講演者と依頼者を引き合わせることになり、そこで新たに生まれた仕事を手伝うことになりました。
フリーランスのライターであるからこそ、何のしがらみもなく、人と人を引き合わせることができます。ただ取材して記事を書くだけでなく、機会を捉えてそのような動きができると、大きな印象・成果を残すことができます。
「サービス=無料奉仕」ではない
ここまで、読者・依頼主・取材先へのサービス精神について書いてきました。原稿料に直結する要素ではないので、無料の奉仕・ボランティア的なイメージがあるかもしれませんが、リピート獲得にはものすごく効きます。ほとんど営業活動と同義だと思っています。
実は、それ以上に「自分へのサービス」にもなってるんですよ。例えるならプレゼント選び。「相手の好きなものはなんだろう、これなら喜んでくれるかな?」と一生懸命に選んだプレゼントを渡す前のワクワクした気持ち。それを仕事で感じることができるんです。サービス精神を随所に仕込み、(自分では)出来が良い(と思った)原稿ファイルを送信する前、何度も読み返して (ノω`*) んふふ♪…となるあの気持ち。これは「言われた通りに書く」仕事の仕方では味わえません。
フリーランスライターにとってサービス精神は、人の為ならず。価値の源泉です。