完成間近!佐賀県の肝がん対策本―伝わるメディカルのブックライティング(2)
前回の更新からだいぶ間が空いてしまいました……m(__)m 以前お知らせした著書がつい先日に校了し、現在は印刷・製本の工程に入っています。書籍名は『い肝ばい肝!-肝がん全国ワーストワンの佐賀県で何が起きたのか?-』となりまして、佐賀新聞社から9月10日に発売予定です。執筆途中では何となく情報公開しにくかったのですが、このタイミングなら制作の裏話を公開しても怒られないでしょう!(たぶん)
執筆では「事前準備」と「ペース配分の宣言」が功を奏した
プロット(構成案)の作成
3月13日に佐賀新聞社で行われたキックオフミーティング後、まずは本書の全体像をざっくりとまとめたプロット(構成案)を作成しました。すでに目次案は作っていましたが、これだと「20頁を使って何を書く」というざっくりした内容でしかありません。なので「この頁には何を書く」くらいまで解像度を高めたプロットを用意しました。その一部がこちらです↓
本書はプロローグ、第1~6章、エピローグで構成されており、上記はプロローグ部分のプロットです。Excelシート1枚を1章分、1行を1頁分として、26頁分の内容を書いています。また内容の区切りに応じて見出しを入れる場所も検討しています。けっこう細かく書いてますので、それなりに時間がかかりましたが、これがあると安心して執筆に取り掛かれます。全体の設計図があることで、そのとき書いている部分に集中できるようになりますからね(他の部分との兼ね合いをいちいち気にしなくてもいい)。
特製原稿用紙(ファイル)の作成
もう一つ、やって良かったのは、本書のレイアウトに合わせて文字数・行数を設定した特製原稿用紙(ファイル)の作成でした。本書は四六判サイズで1行40文字、1頁で15行入るという版面でしたので、それを同じようにWordの設定をしました。下図のようにWordの1頁=書籍の2頁(見開き)としたことがポイントです。
読者が読むときに目に入るのは見開きの状態ですから、執筆時からそれと同じにして書いていけば、微妙な調整ができると考えました。なるべくキリの悪いところでページをめくらなくていいようにとか、1行だけ取り残されたりすることがないようにとか……出来上がりの紙面を想定しながら書けました。 実際には調整が難しい部分もありましたが、全体としてはうまくいったと思っています。
執筆ペース配分設定と宣言
これら執筆に入る前の準備は、3月27日ごろまでに完了しました。全体のスケジュールとしては執筆期間は1か月半、つまり5月半ばまでに脱稿するということになっていました。プロットでは全体で250頁(字詰め換算で15万字)書くことになっており、他の仕事との兼ね合いを考えても、計画的にこなしていかないとヤバいなと思いました。そこで下記のようなスケジュールを組みました。
- 4月3日:プロローグ〆切
- 4月7日:第1章〆切
- 4月10日:第2章〆切
- 4月17日:第3章〆切
- 4月24日:第4章〆切
- 5月1日:第5章〆切
- 5月7日:第6章〆切
- 5月11日:エピローグ〆切
人間のなかでも特に私は、放っておくとゲームとかパズルとかで遊び始めてしまう精神軟弱な輩です。計画を立てたとしても、その計画を守るという保証は全くありません。なので、自分を追い詰める意味でも、上記のスケジュールを本書の関係者(スポンサー含む)に事前に宣言し、1章ごとに提出&予定日との乖離の有無を報告することにしました。そして「期日を守らないと原稿料はゼロ」という暗示をかけました(←実際にはそんな取り決めはありませんでした。一部は前金をもらってましたし。あくまで自己暗示です!)
ぶっちゃけ、関係者の側からしたら1章ごとに送られてくるのはウザかったかもしれませんし、よっぽど予定と乖離していなければわざわざ報告することもなかったと思いますが、著者としてはこのルールがものすごく効きました。実際のスケジュールは章によって数日前後はしたものの、最後のエピローグは5月11日(予定通り)に脱稿できました。
執筆して終わりじゃなかった…むしろそこからが長かった
さて、一般的なライターという職業から考えると、原稿を書き上げたらお仕事は終わりにできそうなものです。しかし本書は編集者が付いているわけではなく、諸々の付随作業が発生することになりました。実際に執筆期間よりも執筆が終わってから校了するまでの期間の方が長かったですし、作業量も同じくらいかかりました。脱稿は終着地点ではなくただの一里塚で、全体の半分くらいの作業が終わっただけなのでした……。
図の描き起こし
執筆後の作業として大きかったものの1つが、図の描き起こしです。執筆時は関係者が提供してくださったスライドなどをそのまま貼り付けていましたが、多くはその後に改変・描き起こしが必要でした。その一例が下図です。
左はもともと別の案件で私が作成していたPowerPointスライドで、原稿にコピペしていました。そして右が描き起こし作業後の図です。もともとAdobeのillustratorをサブスク購入していたのですが、払っている費用の割にあまり活用していなかったので、この機会に練習がてら描き起こしもやってしまおうと思い立ちました。
本来ならこの作業は印刷所などにお願いすれば良かったのかもしれませんが、医師が作った詳細かつ難しいスライドをそのまま描き起こしても一般人には分かりにくいでしょうから、いずれにせよ図の改変指示をする必要が生じます。相手に分かってもらうように遠隔(東京⇄佐賀)で指示するくらいなら、自分で作っちゃえと。
こういう作業は個人的に苦ではない、というかむしろ好きなので趣味的にやりましたが、まあビジネス面で言えばもったいない時間だったかもしれません。会社所属なら外注しろと言われていただろうなぁ。そこはフリーランスの強みであり、弱みでもありますね。
追加取材への対応
もう一つ、予想外だったのが「追加取材」です。本書は事前にキーパーソン10人ほどにインタビューを行っており、その内容とスライド資料などを使ってまとめる予定でした。少なくともプロット作成時はその想定で動いていました。
しかし、執筆中~後にかけて、様々な事情や経緯から追加取材をする必要に迫られました。しかも若干名ではなく、追加だけで10人弱です。結果として本来の想定の倍くらいの取材を実施したことになります。しかも新型コロナウイルス感染症が流行していたときで、感染者が多く出ている東京都民である私が、佐賀県に行くわけにはいかず、電話などを用いての遠隔取材となりました。突然知らないライターから話が来て、顔も見えない状態での取材となり、対象者にはご迷惑をおかけしたなと申し訳なく思っています。
また、すでに形のできていた原稿内に、追加取材の内容を違和感なく入れ込む作業もなかなかのものでした。もちろん追加取材をする時点で、どのような内容を組み込むかは想定はしていましたが、お話を伺っていく中で新たな事実の発見や、それに伴う内容の修正に追われました。これは想定外だったので、今後はこういうことがあると認識したうえで仕事しないといけないなと、勉強になりました。
遠隔での校正対応
新型コロナの影響と言えば、追加取材だけでなく校正紙(ゲラ)のやりとりも遠隔で行わざるを得ませんでした。私(東京)と印刷所(佐賀)の間で紙のゲラを郵送でやりとりするのは面倒ですし、20人前後に膨れ上がっていた関係者に、内容確認用のゲラのコピーを個別に郵送するのはやりたくないなと思っていました。
そこで今回はすべてPDFファイルでの校正のやりとりとさせていただきました。無料のPDFリーダー(Acrobat Reader)では修正内容を書き込めないので、Acrobat Pro DCというソフトを導入しました。こうして illustratorと同様にAdobeに追加でサブスク課金することになったわけですが、これがあったからこそ今回の書籍がこの工数・スケジュールで完成できたと言えるくらい、非常に使いやすいものでした(下図)。
おそらく印刷所の中の人としても、このような形でまるごと1冊分の修正指示が来る経験はあまりなかったのではないでしょうか?慣れるまでには負荷をおかけしたかもしれませんが、きちんと修正指示を反映していただけました。
また、関係者の皆様にもメール添付で送られてきたPDFファイルをチェックするという作業をお願いすることになりました。多くの方は普段から使い慣れているかなとは思いますが、紙よりもフィードバックしにくいと感じる方もいらっしゃったのではないかと思います。ご無理を快くご対応いただき、誠にありがとうございました!
このように、図の作成や追加取材、関係者の内容確認とそれに伴う加筆や修正、序文や年表など本文以外の部分(付き物)の作成など、細かい作業が5月後半から8月前半まで続きました。
そして、さすがに校了時くらいは……ということで、最終確認のために印刷所から送られてきたものが下図です。わざわざゲラを裁断し、本の形になるようにまとめて送ってくださいました。こういった形でゲラが送られてくることは初めてで、すごいサービスだなと感激しました。パンチ穴2つと紐だけで綴じただけですが、頁を行ったり来たりの確認作業にも十分に耐えられる強度でしたよ!
そして8月17日にやっと校了。後は印刷と製本を経て、9月10日の発売を待つばかりです!無事に完成・発売されましたら、またこのブログでもご報告させていただきます!!